なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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吹く風が強かったから --岩波ホール閉館に寄せて--

今年(2022年)の初め、「岩波ホール閉館」の文字が紙面に踊りました。7月末をもって閉館になるそうです。

神保町にある岩波ホールは、エキプ・ド・シネマ運動により、大手配給会社が扱わない数々の名作・話題作を発掘して日本に紹介し続け、多くの映画ファンに愛された伝説の映画館です。

現在地方在住の私はもう長い間足を運んでいませんが、ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』、ジャン・ルノワールの『ゲームの規則』など、学生時代にここで数多くの名作に触れることができました。

また、同ホールは80年代のミニシアターブームの先駆けでもあります。ミニシアターの中には映画館というより映画小屋と呼んだ方がいいようなハコも多く(早稲田にあったACTミニシアターなど)、それぞれ不思議な場の力を持っていました。

ただ、昔は良かった、個性的な映画館が少なくなって寂しい、と嘆いてばかりいても仕方ありません。配信サービスが発達した現在、その気になれば自宅で様々な国の映画を観ることができる、これはとてもありがたいことです。理想の場でなくても何かを受け取る力を持ちたいです。

サブスクの普及によって映像や音楽の楽しみ方そのものが変わりつつある中、観衆が変われば作り手も変わる、新しい表現手法が出てくればそれはそれで楽しみ、とも思います。

岩波ホール閉館のニュースを受け、映画に関する様々な記憶が蘇ったのですが、それ以外にも、総支配人である高野悦子さんの著書『母 老いに負けなかった人生』の以下の一文を思い出しました。

明治の女性の強さについて訊ねた私に、母は「吹く風が強かったから」とひとこと答えたが、母たちの上に吹いた風は、私の想像を超えるとてつもない強いものであった。風ではなく嵐なのだ。

「ひとこと」答えた側には、「今の若い人は情けない」といったしみったれた考えは無かったと思います。何故このような問いを受けるのかわからなかったかもしれません。嵐でも風でも、それに向かってただ立っている、その姿を示すには多くの言葉を必要としないのでしょう。

閉館日の7月29日には、様々な風に立ち向かい続けてきた同ホールに、鄙の地から密かに想いを馳せたいと思います。

(福)