朝起きると、一杯の水を飲む。眠いとか、今日はバリウムみたいとか、肯定的な感想の日は少ない。
ただ、ほんのたまに、この当たり前に出る水道水の有り難さを意識する日がある。なんたって、この朝の一杯の水を得る努力を、私はさしてしてはいない。冷静に考えると、そう思えるからだ。
「生まれる時と場所を、人は選べない」。歳を重ねて、（時間的にも地理的にも）目の前にいない人たちのことを想像できるようになると、こう考えることが増えた。
穏やかな気候。飲料に適した水質。砲撃に怯えない暮し。期日前投票ですら、時に煩わしくなる選挙権。運良く座れた電車での居眠り。私の人生の中の幸運といえるものの多くは、自力で勝ち取ったものではない。ただ、たまたま授かった今生が、私にもたらしてくれているものだ。
毎日こんなことばかり考えていては、目の前の暮らしが成りたたない。ただ、今日は思い出せてよかった、と寝ぼけた頭で、朝の水を飲みながら時々思えるならば、それでいいやと感じている。
（MK）
