なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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究極のタイパ

この四月から念願の新聞記者となったルイスは、今日も何か記事にすることを探しに街に繰り出していた。軽くランチを済ませようと入ったカフェでは、15、6人の客が何か討論のようなもの(?)に興じていた。それが「哲学カフェ」というものであったのを後ほど知ることとなる。
「ぼくも2倍速で映画を観るんだけど、集中力がせいぜい1時間しか持たないからね」
「たくさんの映画を観たいから、ではないのね?」
「うん。時間と労力をかけてもあまり面白い作品じゃなかったら、損したーて思うから」
「でも、筋とは関係ないところでちょっと感動したりする機会を逃してるんじゃない?」
「そうよ。映画で知った良い音楽とかわたしはあるわ」
「倍速で字幕は追えるかもしれないけど瞬間の格好いいシーンなんかよく分かんないでしょ?」
「そうだ。リアルさを追求した映画を倍速で観たらリアルっぽくないよー。感動も薄れるんじゃないかな。映画を観るのは他人に話す為じゃなくて感動する為だ。筋とは関係の薄い予想外のカットが印象に残ることもある」
「ぼくは人生においても同じじゃないのかな、と思っていて。つまりセレンディピティ。幸運はそれを期待せずに、偶然を期待せずに希望だけ持っていなくては感動は得られない」
「願えばそんな偶然に必ず巡り合えるの?」
「いや、必ずというのなら、その偶然は必然であったということになる。必然よりも偶然のほうが感動を呼ぶもんだよ。だから言えるのは偶然を期待はしないこと。だけど希望は持ってね。それが真の感動を呼ぶ。人生はどれだけ感動したかだ。どれだけたくさん経験したかじゃない」
「タイパの賛同者が少ないみたいだけど、今日はこの辺で終了としましょう。皆さん会計を一度済ませて下さいね」

哲カフェは終了したようで、ルイスはこの一行の一人に話かけた。
「ぼくは〇〇タイムスのルイスといいます。あなたたちの話を聞かせてもらいとても興味を持ったんです。あなたはタイパ陣営の方だと思うのですが、皆さん反タイパのようで」
「そうなんですよ。でもぼくは説得されない。今日もこれが終わったら映画を2、3本観ようと思ってるんです。もちろん倍速でね」
ルイスは了解をとってボイスレコーダーのスイッチをオンにしたちょうどそのとき、デスクから呼び出しの携帯が鳴った。
「ごめんなさい。もう少しあなたたちのお話を伺いたいのですが、もし新聞とかに興味がおありでしたら、フリーダイヤル0120—35××—×××9にお電話頂けないでしょうか?ただひとつだけお願いがあるのですが電話番号の末尾9を間違えて6にコールしてしまうととてもヤバイところに繋がってしまうようなので、くれぐれも番号はお間違え無いように。それではご縁があればまた。失礼いたします。」とルイスは急いでカフェを出て行った。
「いまのほんとに新聞記者なの?」
「それは信じていいんじゃない。その名刺、不審なところないし。それより、間違い電話かけると何が起こるんだろうね?」
「かけてみようか、間違い電話」
「やめなよー」
「面白そーじゃん」
名刺を受け取った怖いもの知らずはもうダイヤルしていた。
「トゥルルルルーガチャはい。こちらアルティメイトタイパ推進協会です。究極のタイパを体験したい方は66と押してこのままお待ちください」
「何だ?でもタイパのオーディブルブックなのかな?でもいいや66と。
「ありがとうございます! 素敵な究極タイパ生活をお楽しみください。ガチャ…」
このいたずら好きの青年は友人に話しかけた。
「究極のタイパを楽しめって言ったきり電話切れちゃったよ。変な電話。」
「だーかーらーやーめーろーてーいーっーたーん―だー」
「おいおい、何ふざけてんだよ!そんなゆっくりでなく普通にしゃべれよー」
「おーれーはーふーつーうーだーよー。おーまーえーこーそーはーやーくーしゃーべーりーすーぎーだー」
聡明ないたずら好きは、もしや…………とある考えに突き当たった。
「何故かぼくは倍速で動いてる! 君はぼくの話す言葉が速すぎて聞き取りにくい。ぼくは君らの2倍の速さで情報を処理するから、逆に君の言葉はスローモーションで低音すぎる。まるで録音したテープをゆっくり再生するようにね。
「困ったな。確かにぼくの生理機能も倍速で働いてるから、普通の世界で1時間過ぎる間にぼくは君たちの世界での2時間分の仕事ができる。とってもタイパだ。だけどそれは、普通の世界で40年経った時ぼくは80年もの時間を経過したことになる。君たち普通の世界の人が見ればぼくの寿命が1/2になってる。
「もうひとつ気づいたことがある。電話番号末尾6。それから言われるがままに66を続けた。
666!記者の名前はルイス・サイファー。縮めるとルシファー。奴の正体は…………
堕天使⁈ そして究極のタイパか……これは恐らく……ぼくの魂を少しでも早くモノにする為に……

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