なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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マジか?

 『中枢神経系リンパ狭骨肉腫』
緊急入院したオレは明日手術を受けることになっていた。
ひと通り説明を受けたオレは、選択の余地もなく、ただ点滴のリズムだけを注視していた。
そういえば手術の執刀医になるらしい『忘我無』先生って珍しい苗字だな。
ボウガナシって読むのは説明のとき、先生自身から最初に伺った。
確かに一度聞いたら忘れそうもない名前だ。
いや、そう言えば昔、中学生の頃おなじ苗字だった奴がいたような気もする。
中学生活の退屈しのぎにそいつのことを皆でいじめていたんだ。
そいつも頭はメチャクチャ良かったのも覚えている。
高校、大学とオレみたいなやつとは接点の無い充実した人生を歩んでいったことだろう。
今頃なにしてんだか。頭良かったから医者にでもなったんだろうか。
ん? もしかしてアイツ、いやあの忘我無先生ってあの忘我無なのか?
そう言えば先生の眼にはどこか、ネズミを手中にした猫を感じさせる鋭さが宿っていた 。
まさかだよな? 30年以上も前のことで貌からは本人だと判別しようもなかった。
訊いてみようか? その時タイミング良く医者連中が病室に入って来た。
オレは眼光鋭い忘我無先生に内心怯えつつ訊いてみた。
「つかぬことを伺いますが、『運尽中学』ってご存じですか?」
「いいえ。存じ上げませんが、それが何か?」
「いえ、ご存じなければいいんです。先生と同じ苗字の同級生がいたものですから」
「医者はどの様な患者さんに対しても全力を尽くすのです」
「(…………どういう意味だ?)」
立ち去るとき先生は一瞬、何か面白いことが始まるかのような笑みを湛えたようだった。
「(まさか…………復讐の始まり? 確かに中学時代のいじめは陰惨を極めた。いじめたほうは覚えてなくても、いじめられた側は一瞬たりとも忘れられなかったろう。でも本当にあの『忘我無』なのか? だとしても…………オレにどんな選択肢がある?)」
真冬なのに空調が効きすぎるせいなのか、オレの背中に汗が流れるのが感じられた。
どうする? ど、どうしたら、いいのか…………息が苦しい…………。ナースコールを…………おらるにがは※△?●……………………。
 
この患者の容体が急変し、生命維持装置のある部屋に移送されたが手術直前に心肺停止となり帰らぬ人となった。アナフィラキシーショックが疑われたが、警察の検分では点滴からも問題のある成分は何も見つからなかった。病死とされ、何故かそれ以上の解剖は行われなかったという。異例のことである。

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