「風立ちぬ、いざ生きめやも」
堀辰雄の『風立ちぬ』の冒頭近くに出てくる詩句です。
作者にも作品にも思い入れはありませんが、私はこの一文の音の流れが好きです。
元になったヴァレリーの詩を以下に示します(「いざ生きめやも」に対応する部分)。
Il faut tendre de vivre.
英語に直訳すると
We must try to live.
日本語にすると「生きようとしなければならない」です。
ところがこの「生きめやも」、最後が反語になっています。
「め」は未来推量・意思の助動詞「む」の已然形、「やも」は係助詞「や」と「も」が合わさったもので反語です。
つまり、「いざ生きめやも」は、「さあ生きようか、でも生きないといけないのかなぁ」というニュアンスになるのです(この訳にも諸説あります)。
これを誤訳とする説、堀辰雄が敢えて意味を変えたという説、色々な受け取り方がありますが、私は後者寄りの解釈で読みました。自分自身が「生きなければならない」と断言する勇気がないからでしょうか。
年代によっては、「風立ちぬ」と聞くと「♪今は秋」というメロディが頭に浮かぶ方も多いでしょう。それに続く「今日から私は心の旅人」という歌詞、案外「いざ生きめやも」に近いのかもしれません。