神崎はT大学の4年生。卒業研究は宇宙生物学の白田教授の指導を受けていた。
「未だに地球外生命体が発見されていないのに『宇宙生物学』なんて、なんだかなぁと思っていたけど、ようやく最近面白い事実が分かって来たんだ」神崎は少し興奮気味に、同じく政治学科4年の赤阪に話しかけた。
「実は僕も一大スクープと言ってもいいような真相を耳にしているんだ」赤阪は人が比較的少なくなった学食で周りを少しだけ気にするように答えた。
神崎は続ける。「コロナウィルスの出どころは、どうやら宇宙らしい」
赤阪も言葉を継ぐ。「本当かよぅ? そんな研究やってるのか。お前んところは」
「ああ、ほぼ確実だ。そしてそれより桁違いに重大な秘密もある」
「ここで話して大丈夫か?」
「誰が聞いても冗談だとしか思えない事なんだ。コロナの由来はKV2504。地球から3光年ほどの距離のところにある星だ」
「へぇーそうなんだ。じゃあ俺の方も言うぜ。国会議員のTV映像、新聞写真などが何故かすべて修正されている。俺たちがTVニュースで観てるK首相の映像もだ。スパコンでの映像解析の結果でやっと分かった事は、口元だ。口元に修正が施されている。本物には口が見られないらしい」
「えっ、冗談だろう?K首相って宇宙人だったか?」
「解析の結果、国会議員の2/3の真の姿には口が見られない」
「う~ん、それと関係あるのかな?実はKV2504には知的生命体がいるらしくて。地球から分かることは、彼らは地球人とほぼ同じ。ただ、顔には口が見られないらしい」
「ということは、国会議員の2/3は既にKV2504星人? そして国民の半数以上はまだマスクを着けている!」
「えー、それっていつの間にか日本にはKV2504星人だらけってことか?」
「国会議員の2/3。国民の過半数。———宇宙人たちは憲法改正を狙ってる?」
「彼らの権利を憲法で保障でもしようってのか?確かに日本の憲法では国会議員の2/3、更に国民投票で過半数の賛成があれば憲法改正ができる」
「でもなんで日本人すべてをKV2504星人にしてしまわないんだ。彼らの実力ならできる筈だろう?」
「地球人をいくらかは残しておきたいんだろう。利用する為に。実験台か奴隷にでもするつもりか」
「でも武力でも出来そうなことを何でわざわざ日本の法の手続きを踏むんだ?」
「それが彼らの倫理に適う方法なんだろ」
「ふざけてる!」
「ところで…………お前、まだマスクしてるんだな?」
「お前もな」
「何か食べるんだろ?」
「ああ。お前、マスク取れよ」
「…………いいのか?」
「…………もしかして、お前…………」
「…………」
「なぁー、お前っ」
「周りにいる奴らの口元、よく見てみろよ」
「んっ?」
気がつくと周りの奴らはこちらを凝視していた。その暗い目をした顔に口のある者は誰一人としていなかった。
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