なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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Tears for fears

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気の弱いアキラ君。塾からの帰り道、地下鉄を出てから真っすぐに家路へと急ぐ。
あたりは人気のない住宅街で、この時刻だと街灯が点いているものの真っ暗で下弦の月だけがアキラ君を見守っていた。
妖怪・朱の盤は探していた。人間の恐怖心を餌とするこの妖怪は安永から令和の世まで生き延びてきたのだ。化け物はアキラ君の怖気に惹きつけられ、地下鉄の出口から一直線に走り出すのだった。
アキラ君は何かを感じていた。妖怪ウォッチも反応が強くなってきた。早足で自宅へと急ぐ。「怖いな、真っ暗だし誰もいないや。おかしな音も聞こえて来るよぉ」
「ウゥオオオッ ボゥヴァウア ガゥグアゥガー」
朱の盤は恐怖心の塊を視界に捉えた。一気に加速して、食事にありつこうと舌なめずりをする。ところが、そこでふと恐怖心の塊を見失った。
アキラ君はドアを閉めて結界に入り込んだ。両親は共働きでまだ他に家族は居なかった。冷蔵庫を開け冷えた麦茶で喉を潤すと窓のカーテンを急いで閉めた。
「なんだかお化けに見られてる気がするよぉ」
妖怪は辺りを見回すが、人間の脅威心は何処にも感じられず、とぼとぼまた地下鉄の入口へと帰っていった。

後日、再び同じ時刻。アキラ君は二十六夜の月のほかは誰もいない帰り道を急いでいた。
朱の盤はやはり空腹だったが、なぜかアキラ君とは反対方向に気をとられていた。そこには犬に吠えられているサラリーマンがいた。妖怪は目標を定め走り出した。そして犬にビビってる会社員が、振り返ったところをひと口。
呑み込んだ。
アキラ君は街灯だけを頼りにして家路を急ぐ。
物の怪は再びアキラ君の恐怖心にロックオンして走り始めた。
アキラ君の自宅が見えて来た。小学生はやや小走りになり、結界まであと少しだ。
現代の科学をもってしても理解不能なその物体は口を開けながら不気味な音を立てた。
「ウゥウ ワンワンウワォウ」気配を感じて野良犬が叫びだした。
アキラ君は鍵を差し込みノブを回す。
朱の盤はジャンプして飛び掛かった。そのときアキラ君は結界に入り込みすんでのところで難を逃れた。

更に後日。新月。アキラ君はもう帰り道を走っている。
化け物は強烈な恐怖心を放っている獲物を笑いながら渉猟し始めた。
アキラ君は「怖いよぉおー今日はもうだめかもぉ」自宅まであと15秒くらいだろうか。
朱の盤は恐怖心の塊を射程に入れ走り出す。口を大きく開け恐怖を放っているものをひと呑み。
バチバチッ。
小学生は泣きながら結界に滑り込んだ。「もぅやだ!」

朱の盤は隣の家のニュース番組に映っていた、戦下の子供たちの恐怖心をTVごと腹に納めていた。

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