なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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祈り、或いは......

 「もう、いい加減我慢できない! ルイスの野郎ーっ!!」
「何をそんなに怒っているの? ダニエル。さっきから神さまを呪うような言葉まで使って」社員寮の賄い料理人ポニーおばさんは、ダニエルのただならぬ様子に気づいて尋ねてきた。
 ダニエルは食堂にルイスがいないことを確かめて、続けた。
「ルームメイトのルイスの事だよ。ヘッドホンは難聴になるからとか言って、いつも大音量でスピーカーから一日中音楽をかけているっ!」
「まあ、いろんな人がいるからね。でも最初は仲良さそうに見えたけど」ポニーおばさんは中立の立場で宥めた。
「ポニーおばさん、神さまって願いを叶えてくれると思う?」
「あんまり当てにしないほうがいいわよ」やれやれといった感じで、ポニーおばさんは洗い物に戻っていってしまった。
 ダニエルは決意した。元々毎日曜日には、教会へ行くことは欠かさなかったのだが、ただ主への祈りにひと言付け加えるようになっていた。
 それから1か月程たった食堂。ルイスがいないのを確認してダニエルはポニーおばさんに小声で話しかけた。
「ルイスの奴、悔悛したのか音楽を聴かなくなったんだよ」
「そう、この頃ルイス君お肉もお魚も残して、殆ど食べてないのよ。大丈夫かしら」
「神は正義の味方なんだよ」そう言いながらもダニエルは、余りのルイスの変容ぶりに責任を感じ始めていた。

 そうして3か月程たった頃、社員寮に一台の救急車が止まった。しかし既に何もできない様子。件の部屋のベッドに横たわる冷たい亡骸を運んで行く救急車を皆で見送った。
 ポニーおばさんを始め寮の皆は、このアクシデントに心底驚いている様子だった。ただルイスを除いては。ルイスはむしろ笑みがこみ上がってきて、寮の皆に気づかれないように急いで洗面所に入っていくのだった。
 「ダニエルの奴、いい気味だぜ。冷蔵庫の俺のコーラをいつも勝手に飲みやがって。でもこれで、知らない間に俺のサイダーやアイスが無くなってる事もない。ダニエルの死因は心不全という事らしいが、俺は絶対罪には問われない。どこの警察が呪いの罪で逮捕できる? 俺は確かにフリーマーッケトで買ったアフリカのブードゥー教で使うような薄気味の悪い黒い仮面に毎日祈った。ダニエルがいない時に部屋で蠟燭まで立てて。ダニエルを亡き者とするよう、俺は願を懸けた。好きな音楽を聴くのを断ったし、肉や魚を食べることも断ってベジタリアンになった。お陰でこんなにも早く——ダニエルは死んじまったんだ!」
 洗面所から出て来たルイスはポニーおばさんと鉢合わせになった。
「ポニーおばさん......ダニエルは本当は......良い奴だったのに......何という事だっ!」
「ええルイス、本当にねぇ............。でも、あなたの後ろの黒い仮面は何?」

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