或るウクライナの少女が空爆に襲われるようになって密かに誓ったことがある。「もう感情は持たないようにしよう」
悲しいが生き抜くためであろう。恐怖心だけでなく、怒りや喜び、楽しいなどあらゆる感情という感情は封印されてしまった。
日本でも、ひとりの元死刑囚が生きてゆく為に結果として正気を失ってしまった。袴田さんのことである。拘禁反応といわれるが、生き延びるためには通常の精神では乗り切ることが出来なかったのだろう。
監獄の中いつ刑が執行されるかというという恐怖から解放された今もなお、彼のこころは闇に魅入られたままである。
こころに加えられたストレスがたとえ完全に取り払われたとしても、(敢えてこう呼ぶが)精神の病は当人を苛み続けるものだ。
戦争が終結し生命の安全が、自由が確保されたとしても、あの少女のこころには感情が戻らないのではないかという危惧がある。こころを壊してまでも生き抜いた、その褒章が精神の病だというのでは何のために生き抜いたのか分からない。
どうか僕の懸念が単なる杞憂でありますように。
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