なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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これからの『礼儀』の話をしよう

 礼儀もことばと同じく記号の一種である。だが、ことばほど複雑な意味を持たない。それでもことばと同様、しばしば二重の意味を伝達することがある。表の意味と裏の意味だ。当然裏の意味が真意である。

 裏の意味を表の意味でコーティングして、「私は直接、真の意味をあなたに伝える程、他人の気持ちを考えない傲慢な世間知らずの人間ではありませんよ。」という付加意味と共に送るのだ。或いは逆に「あなたとは直接、口も利きたくないのですよ。」という先ほどの解釈とは真逆の付加意味で裏の意味(真の意味)を補強して、一応の表の意味を伝えているのかも知れない。

 具体的に言えば、余り仲の良くない人に、和解のつもりで誕生日プレゼントを送ったら、直ぐにしっかりとお返しを送って来られた、とかいうケース。

プレゼントは往々にして支配・被支配の関係を生み出す。貰った方が、お返しを出来ないとそこに負い目、被支配という関係性が生じる。

 誕生日プレゼントに即しっかりお返しする。これでマウントは取らせない、という意思表示。

 北米のインディアンによるポトラッチ。相手の部族を返済不能な程の歓待をして、自部族の下に組み入れる。但しポトラッチを行う方も命懸けだ。破産の危機と紙一重な程の歓待をするのだから。それ程までをして人間は上下関係で他人を縛り付けて優越感を得たいのだ。但しそこには歓待という礼儀をもって裏の意味(真の意味)=相手の従属的支配、を試みるのだ。それを防ぐ方法はただひとつ。歓待を受けた方も破産と紙一重の歓待をお返しすること。

 元来礼儀は他人に敬意を表するというかたちで、かしこまって相手を自分の間合いに入れないという防御にもなる。

 度が過ぎれば防御を超えた攻撃になる。ポトラッチのように。それでなくとも、「あなたとは親密な関係は結びたくない」という意思表示(裏の意味)は日常生活では防御を装った攻撃だ。丁重な礼儀というものは。

 

 ことわざ・箴言からも見えてくる世界がある。

 〈礼勝てば即ち離る。〉……敬意は最大の防御。

 ビアス〈礼儀……文句なく是認される偽善。〉……誕生日プレゼントからポトラッチまで、偽善を超えた悪意。

 〈親しき仲に礼儀あり。〉……どんな親しい人も自分が思っているほどは親しくはない。距離をとる必要性。

 礼儀に似たものでマナー=作法というものもある。元々は他人を慮ったものだったかもしれないが、私たちのコミュニティーによそ者は入れないとの意思表示。鉄壁の防御。

 ホッブズ〈万人の万人に対する闘争〉……これは人1人の力は誰も侮れない、皆が最強の戦士なのだということ。ならば他人に敬意を表しなければならない。そうでなければ生きられない。防御が要る。それが礼儀。それでも現代では人が生きてゆくのに必ずしも古いコミュニティーの救けは借りなくても生きてゆける。そこにマナーの崩壊。礼儀の軽視が見える。また社会が豊かになって他人への敬意を思いやる余裕が出来た筈なのに。

 〈礼儀は富足に生ず〉にはならないという現実もある。

 チャップリン〈私たちがみんなで小さい礼儀作法に気をつけたなら、この人生はもっと暮らしやすくなる。〉……人の悩みのすべては人間関係による、という学者もいる。

 渋沢栄一〈礼儀ほど美しいものはない〉……大相撲の様式美。

 本田宗一郎〈技術の根本は礼儀なんです。相手を尊重することから、あらゆることが始まるんですよ。〉……技術を究めようとした男のことば。

 『岸辺露伴は動かない(実写版)』より〈マナーの本質とは相手を不快にさせない、相手を思いやる気持ちにあるんだ。〉……英女王のエピソード、城に招待した客が、こともあろうにフィンガーボールの水を飲み始めてしまった。女王は相手に恥をかかせないよう自分もフィンガーボールの水を啜り始めた。なるほどね。

 

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