なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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「おかげさま」と「おたがいさま」

10年前、救急医療の臨床現場で勤務する学生時代の友達が言っていた言葉を今も時々思い出す。その友達は、「人様にだけは、迷惑をかけないようにしなさいよ」「他人に迷惑をかけなければ、何をしたっていいじゃない?」という言葉が嫌いで、こんなことを言った。

「“迷惑をかけとらん人なんて、おれせんわ!”と名古屋弁で言いたくなる。基本的に、人は、動物や植物を食べている時点で迷惑な存在で、命を奪って命を繋いでいるのだ」 

友人は、学生時代はそうでもなかったが、救急の仕事をするようになって以来、どんなことが起きても淡々と冷静に対応するようになった。しかしこのときは、わざわざ方言を使ってまで強い言葉で表現した。当時の私には、友達のこの言葉がいつにも増して感情的に響き、その真意がよくわからず不思議に思った。

救急医療の臨床現場は医療の最後の砦で、常に人の死が身近にある生活だ。そうでない生活を送る者には簡単には想像できない。その友達の言うことを少しでも理解しようと思ったら、救急医療や集中治療に関わる者のエッセイや情報発信でも読んで、改めてその友達が置かれている状況を想像し、考えることくらいしかない。
その中で、私が出した答えは、
「生きるということは、おかげさまで、おたがいさま。
私たちは、今、奇跡的に、生かされている」
ということだ。

例えば、「人様に迷惑をかけないように」と自分自身を抑えて我慢を重ね、その無理が祟って病気となり、その病気が重くなった結果、どうしようもない状態で救急現場に送られてくる。
「こんな状態になるまでどうして?!
もっと早く、誰かに助けを求めてくれれば、救えたのに」
友達が患者さんを目の前にした時、医療の限界と共に最善を尽くしながらそう感じたのではないだろうか。

本当はもっと生きたかったのに、生きられなかった人がいる。
自殺してしまった人でさえ、それは「追い込まれた死」で、本人の意思で完全に選んだとは言い難い側面がある。
でも誰かが亡くなってしまうと、その人を取り巻く家族や友達などの周囲の人への影響は凄まじい。いのちを助ける営みは、複雑で繊細で地道で個別的で、決して簡単ではない。そうやって必死に高度な医療技術で治療を施しても、回復の見込みがなかったり、死を説明しなければならなかったりする。その時、遺された人たちからやりきれない気持ちをぶつけられることもあるのだろう。友達は、そういうこととも日々向き合っている。

もし、何かのきっかけであなたが亡くなったら、関わりある誰かが悲しむだろう。
深く関わった人や親しい人であれば、その悲しみは慟哭となる。
あなたは想像できるだろうか?
そういう現実が毎日のように起きるのが、救急医療の現場なのだ。

私たちはたった一人で生きているわけではなく、誰かと関わり合い、多かれ少なかれ支え合って生きている。そういう見えない関係性の力を意識できるかどうかで、人生の質を変えられるのではないだろうか。
何かがうまく行っている時は、自分一人の力だけで成し遂げられたということは稀で、大抵誰かに陰で支えられていて、それが全体としてうまく作用して大きなことが成し遂げられている。そういう時に、近くで接していて意識できる人だけではなく、自分からは見えない陰の部分で支えてくれた人(たとえ会うことはないにしても)に対しても「おかげさま」と考える。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という言葉そのものだ。

何かがうまく行かない時は、自分一人が悪いわけでも、誰かが悪いわけでもなく、たまたまうまく行かない力が重層的に働いてしまっただけ。自分を責めたり、目の前にいる近くの誰かを責めたりしても実は意味がないことだから、「おたがいさま」。罪と無縁で間違いのない人はいないし、世の中は複雑なものだから、他人には敬意を払って気遣うことが大事。むしろ「この経験から何かを学ぼう」と捉えれば、成長の機会として考え直すことができる。

「誰かに迷惑をかけないように縮こまって生きよう」とするのではなく、「迷惑をかけなれば、何をしてもいい」と無邪気に考えるのでもない。
誰かと関わり合って生きている以上、「おかげさま」で「おたがいさま」なのだからと考えればいいのではないか。
自分ができることをして周囲と協力して生きていけばいい。できなければ、誰かに助けてもらえばいい。自分にも誰かの役に立つ機会が巡ってくるかもしれない。それくらい気楽に考えて、多くの人が幸せに生きてほしい。

友達は、病院から世間の人々に対してそう願っているような気がした。

(てんとうむし)