なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

● なごテツからのお知らせ ● ←ここをクリック!


本質シリーズ第六弾--香りの本質--

 てんとうむしさんが本質シリーズ第五弾を書いてくださったので、それに触発されて第六弾を書くことにしました。どなたか第七弾を書いてくださることを期待しつつ。

 「香り」というと植物を始めとする天然のものを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ここではまず香水という人工的な香りについて考えてみます。

 世界で最も有名な香水の一つ、シャネルNo.5。『シャネルNo.5の謎』(大野斉子著)では、この香水にまつわるいくつかの特徴的なトピックが紹介されています。

・歴史的背景
この香水を作った調香師エルネスト・ポーは亡命ロシア人。ロシア革命により、ロシア国内では貴族の為の香水工場が石鹸等の日用品工場に転化され、多くの調香師が西側(主にフランス)に流れて行きました。シャネルNo.5は亡命ロシア人調香師とココシャネルの運命的な出会いによって生まれたのです。

アルデヒドの存在
単体では鼻に残る脂肪臭がするものの、フローラルやシトラスに加えるとエレガントでセクシーな香りになる合成香料アルデヒド。今でこそ当たり前に使用されていますが、当時としては画期的な調香でした。

・ブランドイメージ
広く一般に訴えるブランド戦略という面でも、シャネルNo.5は先駆的存在だったと言われています。

 以上をまとめると、

  1. 知られざる歴史が背景にある
  2. それ自体は良い香りではない合成香料が魅惑的な香りを生んでいる
  3. 確立されたイメージの下に人々は香りを楽しんでいる

 というところでしょうか。人々を魅了する香りには、このような要素が必要なのかもしれません。
 自然の香りには作為は無いと思われるかもしれませんが、植物にも背負ってきた歴史があり、攻撃する鳥を寄せ付けないために嫌な香りを出すなど、様々な意図があります。
 また、嗅覚は五感の中でも本能的なもののように思われがちですが、人は特定の香りを吸い込んだ瞬間に、個人的な記憶だけでなく、一般的なイメージなど様々なものを瞬時に想起して味わうのであり、意外と思考と切り離せないものなのではと思います。

 それでは匂いと香りはどう違うのか? 空腹で街を歩いている時にいい匂いがしてきたら、その匂いに誘われてお店に入った経験は誰しもあることでしょう。それに対して香りがそこまでの直接的作用を及ぼすことは少ないと言えます。香りはちょっとした"揺らぎ"を心に生む、それが結果的に行動に結び付くかどうかはともかく心がざわつく、それは過去や現在への想いや、一般的なイメージとも相互作用がある、そのような"揺らぎ"が香りの本質なのではないでしょうか。

 シャネルNo.5というとマリリン・モンローを思い浮かべる人も多いでしょう。シャネルNo.5を纏って寝る、女性なら一度は言ってみたい科白ですが、窓を開けなくても隙間風で換気が出来るような家でそんなことをしたら間違いなく風邪をひくのでやめておきます。

(福)

※ミステリ好きには『パヒューム ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント著)がおススメです。香りが主人公とも言えるこの小説、ラストが圧巻です。