なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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カモかカモメか

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私の実家がある熊本県上天草市は、野鳥保護区として指定されている。カモメや鴨、かいつぶり、とんび、サギなど多種多様な野鳥がそこで暮らしていて、さながら鳥の動物園のようだ。鳥が飛び交う姿を眺めていると、飽きることがない。

ある日、海上に一羽のカモメが浮かんでいた。そのカモメは泳ぐでもなく、飛ぶでもなく、ただのんびりと漂っている。「一体なにをしているのだろう」とつぶやくと、隣にいた父が「自分を鴨だと思っているんだよ。だからああやって、ずっと仲間が来るのを待っている」といった。

父は毎朝、海岸を散歩している。そのとき、このカモメをよく見かけたそうだ。以前は鴨の群れの中にいて、カモメの群れがやってきても、その中に入っていかない。知らん顔して、鴨の中に居続けるのだそうだ。父は「どういった経緯があったかはわからないが、おそらく自分のことを鴨だと思い込んでいるのだろう」と言った。

鴨は渡り鳥だ。この季節になると北の方角に飛んでいってしまう。だからいくら待っていても、仲間は来るはずがない。それを知らない彼は、ああやって待ち続けているのだろう。気の毒だと思うが、それを知らせる術もない。言葉が通じるのであれば、「鴨たちは来年にならないと戻ってこないよ。だからカモメのところに行きなさい」と伝えたいが、そう言ったところで「そんなはずはないよ」と無視されるだろう。

彼の世界は、彼の中にある。その世界の外にいる私がなにを言ったところで、彼の世界はなにも変わらない。むしろ彼のほうこそこんなことを思っているかもしれない。「あいつは自分を人間と思っているようだ。真実を教えてあげたいけど、きっとわかってもらえないだろう。ここは黙っておこう」。

(真)