スガキヤラーメン、あるいは寿がきやラーメン、という食べ物がある。
全国区ではないかもしれないが、私の暮らす地域ではソウルフード的立ち位置である。
昔からショッピングセンターのフードコートには必ずと言っていいほど出店していて、子どもの頃の家族での外食と言えば、せいぜいスガキヤラーメンであった。
トッピングはペラリとしたチャーシューと、ペラリとしたシナチク。スープは白いのに豚骨ではなくカツオだし。
さて、このラーメンが美味しいかどうか。
大人になってから、かなり長い間食べなかったので、久しぶりに食べた時に感じたのは「懐かしさ」であった。
「うん、こんな味だったわー」「うんうん、懐かしいわ」
そして今は亡き懐かしい人たちの顔も思い出したりして…。懐かしんでいるうちに食べ終える。
ごちそうさまでした。
さて…
美味しかったかな?
…よくわからない、というのが正直なところ。
懐かしさが大きすぎて、味がどうとか判断がつかないのである。不味くはないのだけど。
考えてみると「懐かしさ」というのはすごいパワーを持っている。
思い出の品を捨てられないのは、その品を見て懐かしさを感じたいという欲が捨てられないからだし、ある対象物を見て一緒に「懐かしいー!」と言い合えれば、そこに平和なつながりが生まれる。初対面の人と仲良くなるキッカケになることも多い。
以前聞いた話では、他者の手料理をいただいてお世辞にも「美味しい」と言えない時には「懐かしい味」と言えば無難だとか。
「なんだか懐かしい味ですね♡」
「そう?よかった♡」
懐かしさ…
それは、この世界の穢れを一時的に覆い隠す白い雪のように、私たちに一息つかせる優しい感覚なのかもしれない。
(ikue) ゆる記事担当。