なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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Truth

 「マーくん、あなたって本当のこと、自分が本当に思ってることって言わないのね」
 「そうかなぁ」
 「私にだけは本心を明かしていいのよ。じゃないと私、信用されてないっていうか...」
 「君のことは特別だと思ってるって」
 「嘘。じゃあどうしてこのあいだの連休も仕事が忙しいって言って………..」
 「……近くにいい店見つけたから今度の日曜にでも行こうよ」
 「今はそんな気分じゃないの。マーくんもその筈でしょう?」
 「どういう事かな?」
 「マーくんの子供の頃、実のお母さんが人を殺めた罪で捕まったのって、あなたの証言が決め手だったって、警察の方から聞いたわ。きょうが仮釈放になるって」
 「君には……本当のこと話すよ。僕が小学3年生の時だった。他に有力な情報がないまま殺人事件の捜査は暗礁に乗り上げた。その時ぼくの証言が突破口となり、警察は犯人を捕まえた。つまり母さんをだ。父さんはそれ以来、口を利いてくれなくなった。親戚からも冷たい仕打ちを受けたんだ、ぼくは。それ以来ぼくは本当のことは言うまいと心に誓った。本当のことなど言っては、誰も幸せには出来やしない。ぼくは……」
 「ありがとう。私には本当のこと言ってくれて……でもなぜ?」
 「…………最近、カントの本を読んだ。定言命法。『どんな時にも嘘はついてはいけない』ってやつだ。たとえば斧を持った男に子供が追いかけられている。その子供が匿ってくれって僕の家に入って来たとする。そして斧の男が、僕の家のインタホンを鳴らして、『いま子供がここに入って来なかったか?』と訊いて来る。その時も嘘をつかずに『ええ。ここに入ってきました』と答えるべきだという。どうして? 子供は殺されちゃうよ」
 「その子供は実は子供ながら殺人鬼で、ここに来るまで10人以上人を殺していて、次はあなたを狙うかも知れない、という事実があったら? 人の行動が善か悪かは状況により変化する。ある行動だけを見て善か悪かは決められないわ」
 「そうすると世の中のことは状況次第で、過去の或いは未来の状況次第で、善にも悪にもなる。つまりこの世界は虚無だ(ニヒリズム)という事になる 。でもぼくは絶対善、絶対悪があると思う。『嘘をつかない』、これはいつの時点で見ても絶対善だ。そうでなければ世の中は虚無が存在するだけになる。さっきの追われている男の子が、生き延びて実はアウシュビッツをつくり、世界に宣戦布告をするような男だったら? でもそんなこと今の時点では分からない。未来に何がどうなるか分からない以上状況次第で、ある行動が善か悪かになってしまうというのは、この世界には虚無しかないと宣言するのと同じだ。ぼくは違うと思う。人間の行為は、過去のどんな事実が明らかになってこようと、未来に何が起ころうと、絶対の善・悪はあるんだと思う。この世界が虚無であること(ニヒリズム)から抜け出すために」
 「そう……、あなたの大好きなお母様に会えるのね、きょう」
 「ああ。これは絶対善だよ」

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