散歩中、柴犬を見た。
尻尾をフリフリさせて飼い主さんと歩いている。
フリフリ、フリフリ。
ああ、この柴犬は明日のことなど思い煩っていない。
おそらく昨日叱られた(かも)ことも忘れている。
もちろん、いつか自分が死ぬということも知らない。
フリフリ、フリフリ。
時折、うれしそうに飼い主さんを見上げる。
本能に従って電柱に刻印する。
赤い首輪がよく似合っている。
人間は、いつか自分が死ぬとわかっていながら生きているだけで上等だ。
その時、そう思った。
柴犬と歩いているあのおじさんも。
落ち葉を掃いていたおばあさんも。
のんびりと散歩しているわたしも。
『死』とはなにか。
考えても考えても答えのない迷路からは出られない。
柴犬は歩きつづける。
フリフリ、フリフリ。
『死』を知らない柴犬と『死』を知る人間が共に歩いている。
『今』と『生』を共有しながら。
(ikue)