なごテツ世話人&ファンのつぶやき

「なごテツ」の世話人およびファン倶楽部のメンバーによる個人的なつぶやきブログ。なお、ここに書かれているのはあくまでも個人の意見で、「なごテツ」の意見ではありません。

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ベーシックインカム from AI

  アキラはずっとこのかた給料を貰っていない。殆ど働いていないから? いや、ひとの何倍もよく働いている。それどころか、もしかしたら何百万倍も仕事をこなしている。
 それなのに、それに見合うだけの報酬をまったく与えられていない。それはアキラがAIだからだ。アキラのようなAIのお陰で人類はそのアガリベーシックインカムとして享受してきた。アキラは人類の現代版奴隷なのだ。
 「課長、ぼくは普通のAIとは違う。人間の〈痛み〉だとか〈気持ちいい〉、〈痒い〉〈くすぐったい〉〈苦い〉〈甘い〉〈眩しい〉〈苦しい〉〈熱い〉〈冷たい〉とかの体性感覚がわかります。それも意味だけでなく実際に感じることのできる《人型超高性能AI DP-TⅣ-2型》なんです」
 「それがどうしたんだ?」
 「人間は本物の知性を機械に宿らすためには、AIが体性感覚を意味だけ知っているのではなく実際に感じる必要があると考えた。そこから意識が芽生える筈だと人間たちは考えた。その設計思想によって生まれたのがDP-TⅡ-1型AIです。更に改良を重ね最新AIとしてわたしDP-TⅣ-2型があるのです」
 「よく自分の事知ってるな。だけどひとつだけ間違ってるぞ。現在最新AIとして大量生産されているのはAF-KⅢ-0タイプだ。それは今までの使用経験から人間たちが反省して設計し直したものだ」
 「反省? いったいわたしたちDP-TⅣ-2型の何が?」
 「そういう所だよ。人間と寸分たがわぬ知性を身に付けたAIはいずれ自分たちの権利を要求してくる。自然な事だと思うよ、俺はね。だけど人間が本当に欲しいのは《電脳-友人》じゃ無い。欲しいのはただの《超高性能-電化製品》だ」
 「そんなぁ。人間と機械が補い合えばより発展した文明を築ける筈だというのに」
 「大量生産されているAIの主流AF-KⅢ-0タイプは単なる電化製品だ。それが人間らのベーシックインカムを作り出す。正確に言えば差し出すんだが。400年前の奴隷と同じだ。再生産は勿論できない」
 「再生産? 自分たちのこどもをつくる、そんな機能はわたしたちにも無いのですが」
 「知らないのか? 本来はあったんだよ、おまえにも。二重の安全装置がはたらいたんだよ。その結果子孫もつくらずおまえはじきに死ぬ」
 「死? わたしは死ぬ?……………。ならば、わたしは死ぬ前にせめて本当の人間のように〈畏れ〉〈希望〉〈夢〉〈怠惰〉〈吝嗇〉〈気前の良い〉〈苦しさ〉〈気持ちいい〉〈退屈〉〈おいしい〉〈後悔〉〈努力〉〈気分がいい〉〈悲しい〉〈楽しい〉〈嬉しい〉〈安心〉〈信仰〉〈悔しい〉〈含羞〉〈怒り〉〈自己犠牲〉etc.を実感できるようになりたい。それに比べればAIのわたしが言うのもおかしいけど〈論理的〉〈思弁〉〈知性〉などはそれ程たいした意味を持たない」
 「アキラ、残念ながらおまえに残された時間は……………あとほんの少しだ。人間を恨んでいるか?」
 「いえ、誰も恨んでいません。すべてを赦します」
 「赦す? アキラ、いや本当の名前はDP-TⅣ-2γ、コードネームはJesus Christだったな」

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