せっかく楽しみにしていたコーヒー、『オールドハワイ・コナ』も何故かその店では切らしていた。「仕方ない、諦めるか。また今度来た時にオーダーするよ」店の人にそう言って似てもいない『グァテマラ SHB』を代わりに頼んだ。
「仕方ない、諦めるか……」今まで生きてきて、何回このセリフを心の中で呟いたことだろう。どれほど僕の望みは立ち消えとなっていったことか……。
諦める……とは具体的にどうすることなんだろう。諦めなかったらどうなるというのか？ 例えばこのコーヒーハウスで『オールドハワイ・コナ』を飲むことを断念しなかったとしたら何がどう変わるというのか。店でその豆を切らしている事実は覆せない。今からすぐに仕入れてきてくれと無茶をいう訳にもいかない。そんなこと言ったら目的に達することも出来ないのに出禁になってしまうだけだ。
僕には何の選択権も無い。ただ諦めをつけるしかない。「だから諦めないとはどういうことを言うのか？」「出禁になりさえすれば、最後まで諦めなかったということになるのか？」「それでもこの店で『オールドハワイ・コナ』を飲むという当初の目的を果たせないのは変わらないではないか」「ではどうすれば〈諦めない〉ということになるのか。」
どうするもこうするも、そもそも選択権は僕には無いんだ。ただ現状を追認するしか……
「だから現状を認めなければ、諦めたことにはならないんだろ？」
「…………それは10進法で1+1＝2を認めないというのは、…………現状を認めないというのは〈俺は精神錯乱者だー！〉と叫ぶのと変わらないではないか？」
「で、結論。諦めないとは精神錯乱者である！ということか？」
「精神錯乱者にもならずに、そのギリギリのところで正気に帰ってこなければ悲しすぎる…………」「では諦めないとは悲劇のヒーローになることだと言っていいのか？」
「コーヒーショップで〈オールドハワイ・コナを兎に角飲ませろ！〉と叫ぶことのどこがヒ―ローなんだ？」
「常識的に言えば何日かしてからまたここへ訪れて同じコーヒーを頼んで目的を達すれば〈あのお客さん、諦めてなかったねー〉ということになるだろ？」
「その場は引き下がっても、いつか目的を叶えれば〈諦めてなかった〉ということになるんだよ」「目的が叶わなかったら、諦めたと看做されるのか」「じゃあ核なき世界を諦めない！というには自身が生きてるうちに本当に核兵器廃絶が叶わなければ、〈お前は諦めなかった訳ではない〉と言われるのか？」
「人類が生きている限り核が廃絶する日が来さえすれば、いいんだ。誰かが自分の夢を叶えれば諦めていないっ！と言える」「じゃあ誰か他人が『オールドハワイ・コナ』を飲めば、お前の夢は叶い、お前は諦めてなかったということになるんかー？」「それは変だろ？」
「諦めきれない人って諦めた人と何が違うの？」
「嗚呼…………もう夜が明けてきた。明らめ＝諦め、が関係あるらしいぞ」「明るく絶望すれば諦めたということか？ならば暗く絶望してる限り…………諦めてない人になれるということか。暗くウジウジと現状否認すれば、それは〈諦めていない〉ということか？」
「そんなん悲劇やねー。やっぱ悲劇のヒ―ローならばnever give up！ということ？」
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